概要
スターシップは、SpaceXが開発中の2段式・完全再使用型の超大型打ち上げシステムです。機体全体は、33基のラプターエンジンを搭載する第1段ブースター スーパーヘビー と、6基のラプターエンジンを搭載する上段兼宇宙船 スターシップ で構成されます。スタックした状態での全高は約121メートル、離昇時の推力は約74メガニュートン(1,670万ポンド重)に達します。これはアポロの宇宙飛行士を月へ送ったサターンVのほぼ2倍の推力です。
スターシップは完全再使用を前提に設計されており、両方の段が射場へ帰還して短期間で再整備・再飛行できることを目指しています。SpaceXがこれを大規模に実現すれば、現行の使い捨て型や部分再使用型のロケットと比べて1キログラムあたりの打ち上げコストを1桁以上引き下げ、宇宙輸送の経済性を根本から変えることになります。
仕様
| 項目 | スーパーヘビー(ブースター) | スターシップ(上段) |
|---|---|---|
| 全高 | 約71 m | 約50 m |
| 直径 | 9 m | 9 m |
| エンジン | ラプター2 × 33基(海面用) | ラプター(海面用)× 3基+ラプター・バキューム × 3基 |
| 推進剤 | 液体メタン/液体酸素 | 液体メタン/液体酸素 |
| 推力(海面) | 約74 MN(1,670万 lbf) | 約14.7 MN(合計) |
| 構造 | ステンレス鋼(301/304L) | ステンレス鋼(301/304L) |
| 回収方法 | 推進による帰還、発射塔の「チョップスティック」によるキャッチ | ベリーフロップ姿勢からの推進着陸 |
打ち上げ能力
スターシップの打ち上げ能力は、ミッションの内容と、機体を使い捨てにするか回収するかによって大きく変わります。完全再使用モードでは、SpaceXは低軌道(LEO)へ100〜150トンを目標としています。上段を使い捨てにする構成(日常的に使われる可能性は低い)では、理論上200トンを超えることもあり得ます。比較すると、ファルコン9は低軌道へ22.8トン、ファルコンヘビーは63.8トンです。
ペイロードベイは、貨物構成で内径約8メートル、高さ約17メートルあります。宇宙ステーションのモジュールまるごとや大型宇宙望遠鏡、次世代のStarlink V2衛星の大量搭載(1回の飛行で40〜60機の可能性)にも対応できる大きさです。
試験飛行プログラム
スターシップの開発は、「試して、失敗し、直して、また飛ばす」というSpaceX流の反復的な思想に沿って進められ、テキサス州ボカチカのスターベース施設から統合飛行試験(IFT)が矢継ぎ早に実施されてきました。
- IFT-1(2023年4月) — 初の統合飛行試験。上昇中に複数のラプターエンジンが停止し、機体はT+約4分で飛行中断システムにより破壊されました。射点も大きな損傷を受けました。
- IFT-2(2023年11月) — ホットステージング分離に成功(SpaceXとして初)。ブースターはブーストバック中に失われ、上段は準軌道高度に到達した後、慣性飛行中に失われました。
- IFT-3(2024年3月) — 上段が初めて軌道速度に到達しましたが、再突入中に失われました。宇宙空間でのエンジン再着火とペイロードドアの開放を実証しています。
- IFT-4(2024年6月) — ブースターと上段の両方が、それぞれの目標海域で制御された着水に成功。再使用計画にとって大きな節目となりました。
- IFT-5(2024年10月) — スーパーヘビーのブースターが帰還時に発射塔の機械式アーム(「チョップスティック」)でキャッチされました。軌道級ロケットのブースターがキャッチされたのは史上初です。上段はインド洋で制御された着水を完了しました。
- IFT-6(2024年11月) — 試験を継続し、ブースターは再び射場付近への帰還に成功。上段も着水し、熱防護システムの性能改善が確認されました。
- IFT-7(2025年1月) — 改良型ラプターエンジンを搭載して飛行し、2回目のブースターキャッチ挑戦を含め、再使用に向けたさらなる節目を達成しました。
試験は2025年から2026年にかけて続いており、再使用性、軌道上での運用、ペイロードの放出、熱防護システムを飛行ごとに段階的に検証しています。SpaceXの目標は、ブースターと上段を短期間で再使用しながら高い打ち上げ頻度を達成することです。
今後のミッション計画
スターシップは、いくつもの主要計画の中核を担っています。
- Starlink V2 — フルサイズのStarlink V2衛星は、スターシップで40〜60機ずつ打ち上げられる設計です。コンステレーション構築を大幅に加速させ、携帯電話への直接通信(ダイレクト・トゥ・セル)に対応した高性能な衛星を実現します。
- NASA アルテミス HLS — 改造型のスターシップが、宇宙飛行士を月面へ再び送り届けるNASAのアルテミスIII・IVミッションの有人着陸機(HLS)に選定されています。HLS仕様は月へ向かう前に、複数回のタンカー飛行による軌道上での燃料補給を必要とします。
- 火星 — スターシップは、将来の有人火星ミッションに向けてSpaceXが想定している機体です。現地資源利用(ISRU)により、火星の資源から帰還用のメタンと液体酸素を生産することを目指しています。
- 地点間輸送 — SpaceXは、地球上の2地点を超高速で結ぶ輸送手段としてのスターシップ活用も検討してきましたが、この用途はまだ構想段階であり、規制面の大きなハードルもあります。